Sad-Eyed-Lady’s blog

かき鳴らす げんのしらべに もの思う ひとのよのたび 夢げんほうよう

草笛ー4

少年とダチュラ

 

常夜に切れ込む隙間から垣間見る繰り返す日

常の不気味さを他所に、林道を下れば薄暗い

杉の木立から降りしきる蝉時雨は、さっきま

でのそれとはうって変わり涼やかな風も吹き

なんという調和だろう。先ほどの少年が30

メートルくらい先にいる。私もそこまで駆け

降りて隣に並ぶと、飴色したそのヌケガラを

食べてごらんと言うので、ポンッと1つだけ

口の中へ放り込んだ。味はよく分からないが

塩付けて食べると美味いよと早口に言うので

私はフーンと納得して何か言おうとする矢先、

少年は「じゃあ」と言って風のように行って

しまった。私はトンネルの出口みたいな木立

の向こうの陽だまりへ彼を見送り、山道をゆ

っくりと登りながら森を横目に家路についた。

 

その家は素朴で小さいながらも都会の手狭な

住まいより、はるかに広く大黒柱と太い梁を

備えており降り積む雪の季節にも十分堪える

造りになっていた。土間から座敷をつなぐ廊

下には階段があり、2階へ上がると昔は蚕部

屋として使っていた広間があった。父は桑の

葉雨を聞いて育ったという。階下には間口の

傍、深い穴に板を渡しただけの粗末だが広い

便所がある。天井から太いロープがぶら下が

っており何某かを語りだすので、私は仕方な

く外へ出て裏に回り用を足した。暮れ泥む青

い世界に装いも白く大胆なダチュラが咲いて

いる、その匂い立つ色気で天蛾どもを誘き寄

せ、私は踊り狂っていた。

 

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