Sad-Eyed-Lady’s blog

かき鳴らす げんのしらべに もの思う ひとのよのたび 夢げんほうよう

草笛ー3

学校と祠

 

池に面した山道を緩やかに少し登れば、家の

すぐ裏手に父が通った小中合わせた古い学校

があり広い運動場がひらけている。誰かがひ

とり昇降口の段差に腰掛けている。それぞれ

高さの違う鉄棒が三欄隅に置かれているが、

随分と背の高い向日葵がそれを見守っている

だけだ。校庭を挟んだその反対側には囲いも

なく無造作に長方形で刳り抜かれコンクリで

固められたような水色のプールがあり、それ

となくアオミドロや虫の死骸など浮いてはい

たが素足を入れ思いきりバタ足をすれば、お

一人様に私はご満悦だった。

 

木造校舎に向かって右側は小高い森になって

おり、斜面には大きな木の根が絡み合いなが

ら剥き出し、今にも見せしめんとばかりに縛

り上げようと待ち構えている。青いキャップ

の少年が上から手招きしている。知らない子

だが私は好奇心でその根の間を掻い潜り登っ

てゆき、足下の熊笹を払いながら奥まった場

所へ彼を追い入って行った。するとそこには

少年の姿はなく小さな祠があるだけだった。

辱められることを拒むその扉は、暗黙に了解

されてはいても、なおのこと審らかにしたい

秘密を確然と抱えている。私は扉を開けるべ

きか暫く考えながら足下の蟻の行列を見てい

た。小さな肉片をぶら下げた翅のようなもの

を忙しく運んでいる。頭の上からは狂瀾とし

た鳴き声が私を責め苛み、耳を塞ぎしゃがみ

込む。すると縁の下には夥しい数の蟻地獄が

びっしりと巣食っているのが見えた。

 

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