Sad-Eyed-Lady’s blog

かき鳴らす げんのしらべに もの思う ひとのよのたび 夢げんほうよう

草笛ー2

溜池と窓

 

山間にあるその古い家の前には溜池があり、

その脇を山道に続く小路が延びている。赤い

花がその入口を彩り咲いて、池の周りをぐる

りと茅が茂り、所々草花も漫ろ顔を覗かせて

いる。傍には小さな畑もあり、大輪の立葵

数本まばらに佇んでいる。熊蜂がしきりにそ

の妖艶な花弁の裾から潜り込もうと息巻いて

いる。池には鮒や泥鰌でもいるのだろうか、

小藪で糸蜻蛉が赤やら青やら黄色やらをチラ

リチラリと覗かせているのだが、私はそれよ

りもっと、アレに夢中だった。

光の筋のようなものが宙を劈いてゆく、それ

は碧い螺鈿細工の輝きを放ちながら傾いては

旋回して鼻先を掠め飛んでゆく。その碧さは

欲望を駆り立て幼さと言うよりは、むしろ若

さというエロティシズム、なんという迸る美

しさだろう銀蜻蜓おまえが私を喰らうのか?

おや、二階の窓から誰か見ている、あれは…

つと、手を振ってみる。すると何か聞こえて

くる、潜もるように鳴っている。

 

f:id:Sad-Eyed-Lady:20240215150717j:image