少年とダチュラ 常夜に切れ込む隙間から垣間見る繰り返す日 常の不気味さを他所に、林道を下れば薄暗い 杉の木立から降りしきる蝉時雨は、さっきま でのそれとはうって変わり涼やかな風も吹き なんという調和だろう。先ほどの少年が30 メートルくらい先に…
学校と祠 池に面した山道を緩やかに少し登れば、家の すぐ裏手に父が通った小中合わせた古い学校 があり広い運動場がひらけている。誰かがひ とり昇降口の段差に腰掛けている。それぞれ 高さの違う鉄棒が三欄隅に置かれているが、 随分と背の高い向日葵がそ…
溜池と窓 山間にあるその古い家の前には溜池があり、 その脇を山道に続く小路が延びている。赤い 花がその入口を彩り咲いて、池の周りをぐる りと茅が茂り、所々草花も漫ろ顔を覗かせて いる。傍には小さな畑もあり、大輪の立葵が 数本まばらに佇んでいる。…
序章 目を閉じるとそこは……… 小学三年生の夏休み、それは私にとって家族 との楽しい最後だった。父の生まれ育った新 潟の山に帰省する、関越道が開通する以前の 長距離ドライブ。夢の中へと紛れ込む亜空間 は、妙な既視感に背中を押されるようにして 繰り広…